目次

  1. はじめに
  2. ループインピーダンス測定の目的
  3. 電気回路のLOOP(ループ)とは
  4. 短絡(L-N間)のループ
  5. 地絡(L-E間)のループ
  6. 短絡と地絡では保護方式が違います
  7. 低圧電気設備 JIS C 60364(IEC 60364)の概要
  8. JIS 60364における接地系統の分類(TT/TN/IT)
  9. TT系統とTN系統
  10. JIS 60364における故障ループインピーダンスの規定
  11. TN系統における電気の自動遮断の保護
  12. TT系統における電気の自動遮断の保護
  13. 故障ループインピーダンス測定が要求されているその他の規格
  14. ループ測定器セレクションガイド
  15. 参考文献

1.はじめに

1999年11月にJIS C 60364(IEC 60364)低圧電気設備が電気設備技術基準の解釈272条に取り込まれました。その中で、電源の自動遮断の検証方法として故障ループインピーダンス試験が規定化されています。本ページは、日本ではまだあまりなじみのない故障ループインピーダンスの概要をご理解いただき、今後の現場測定に役立てていただくことを目的としています。

2.ループインピーダンス測定の目的

もし、電気回路で短絡事故が起こった場合、ループインピーダンスが充分小さく(以下の回路では5Ω以下)管理されてなければ、過電流遮断器が動作せず危険な状況になります。このループインピーダンスが充分小さいことを確認し、遮断機が適切に動作するように管理するのが測定の目的です。

単純計算ですが、上図の100V回路では、20Aの遮断器がトリップするためには、ループインピーダンスは5Ω以下でなければなりません。(実際はもっと低い抵抗に管理されています。詳細は11章以降を参照ください。)

3.電気回路のLOOP(ループ)とは

短絡のループ(L-N間ループ)と地絡のループ(L-E間のループ)の2種類があります。

ループ抵抗(交流の場合はインピーダンス)とは、具体的には電源側インピーダンスと配線の抵抗を合計したインピーダンスのことを意味します。





4.短絡(L-N間)のループ

L-N間ループの全抵抗(インピーダンス)のことをライン-ニュートラル  ループインピーダンスと呼びます。

L-N間がショート(短絡)した時に流れる電流を推定短絡電流(Prospective Short circuit Current)、略してPSCと呼びます。




5.地絡(L-E間)のループ

L-E間ループの全抵抗(インピーダンス)のことをライン-アース ループインピーダンスと呼びます。
(コンセントからLOOP測定器を使用するとこちらのインピーダンスを測定します)
一般的にはフォールトループとも呼ばれています。

L-E間がショート(地絡)した時に流れる電流 を推定地絡電流(Prospective earth Fault Cuurent)」、略してPFCと呼びます。
一般的にはフォールトカレントという言葉が使われており、漏れ電流と同じ意味になります。


6.短絡と地絡では保護方式が違います

短絡(L-N間)の場合は配線用(過電流)遮断器 (MCCBまたはMCB)で保護されています。負荷電流の保護なので大きい電流(20A)以上の電流が流れると遮断します。(TN系統における保護方式)

地絡(L-E間)の場合は漏電遮断器(日本で はELCB、欧州ではRCD、米国はGFCI(Ground Fault Circuit Interrupter)と言葉が変わるので注意が必要)で保護されています。漏れ電流の保護なので小さい電流(30mA)以上の電流が流れると 遮断します。(TT系統における保護方式)

※TN系統及びTT系統の解説は、8章.JIS 60364における接地系統の分類を参照ください。

7.低圧電気設備 JIS C 60364(IEC 60364)の概要

国際規格(IEC 60364)との整合化を目的として、1999年11月に電気設備技術基準に取り込まれ、JIS規格としては以下の5部構成として規格化されました。

  • 60364-1:基本的原則、一般特性の評価及び用語の定義
  • 60364-4:安全保護
  • 60364-5:電気機器の選定及び施工
  • 60364-6:検証
  • 60364-7:特殊設備又は特殊場所に関する要求事項

従来の「電技解釈」との相違点

  • 接地系統をTN系統、TT系統、IT系統の3つ に分類し、それぞれの適用場所や接地方法に ついて規定しています。
  • 故障ループインピーダンスの規定がされました。
  • 感電保護の対策として等電位ボンディングを 重要視しています。

8.JIS 60364における 接地系統の分類(TT/TN/IT)

TT系統(電源側と負荷側が別の接地。日本・南欧)

IT系統(電源側に高インピーダンスの接地。病院等)
TN系統(電源側のみ接地。英・東欧・露・北米・南米・中国・印・豪など)

第一文字:電源の接地方式を表します。
第二文字:露出導電部※の接地方式を表します。
 T:直接接地
 N:電源の接地点に露出導電部を直接接地
 I:非接地又は抵抗接地
※露出導電部とは電気設備の金属製外箱のことです。


9.TT系統とTN系統

ループインピーダンスの目安はTN系統とTT系統で大きく異なります。
  TN系統の場合…1Ω前後
  TT系統の場合…100Ω前後

TN系統・TT系統とは、配線の接地方式による区別です。
TN系統は負荷側の接地が電源側のアースに接続されている方式で、
イギリスやオーストラリア・ チェコ・フィンランド・南アフリカなどの国で使われています。
TT系統は電源側と負荷側が別々に接地されている方式で、
フランス・イタリア・ベルギー・デン マーク・スウェーデン・スペインなどで使われています。
(日本も一般的にこの方式です。)

10.JIS 60364における故障ループインピーダンスの規定

『JIS C 60364-6:検証』の中で、電源の自動遮断による保護条件の検証方法として以下のように規定されています。

TN系統の場合 
故障ループインピーダンスもしくは保護導体の抵抗を測定することで検証を行います。TN系統における保護装置としては過電流遮断器が一般的ですが、たとえば230Vで0.4秒以下の遮断特性を要求されているため、定格電流の10倍以上の電流が流せる低いループインピーダンスが必要になります。

TT系統の場合
露出導電性部分用の接地極の抵抗測定が要求事項ですが、これもループインピーダンス測定での検証が可能です。TT系統における保護装置としては、一般に漏電遮断器が使用されますが、この場合、接地極の電圧が50V以上にならないようにループインピーダンスを維持する必要があります。

詳細については次項目からの説明を参照ください。

11.TN系統における電源の自動遮断の保護

TN系統における電源の自動遮断の保護①

60364では、TN系統の場合の「電源の自動遮断による保護」の条件として Zs≦Uo/Ia が示されています。  

  • Zs:故障ループインピーダンス(赤線部分のインピーダンス)
  • Ia:決められた時間内に保護装置を自動遮断させうる電流
  • Uo:公称対地電圧(交流実効値)

TN系統における電源の自動遮断の保護②

ここでIaの「決められた 時間内」とは遮断時間のことで、60364では一般の回路の最大遮断時間を右表のように規定しています。
※遮断時間は本来、接触電圧との関係で規定されるべきですが、接触電圧の算定は困難なため、多くの国の長い経験から実践的方法として対地電圧に対する遮断時間が決められています。

この表で、対地電圧230Vに対する遮断時間は0.4秒
ここでもし、定格16Aのブレーカーを0.4秒以内に動作させようとすると、
定格電流(16A)を流したのでは間に合いません。(16Aでは遮断する までに数分必要)
これはブレーカーが「遮断時間を短くするにはより多くの電流が必要」という動作特性を持っているためで、もし0.4秒で作動させるためには160Aの電流を流す必要があります。(特性CのMCBの場合)


TN系統における電源の自動遮断の保護③

上図で160A以上の電流を流すためには、ルー プインピーダンスは1.44Ω(=230V/160A)以下でなくてはなりません。
ここでループ測定器は1.10Ωを示しており、上記条件を満たしています。
従って、過電流があった場合、ブレーカーは0.4秒以内にトリップします。
(この場合に流れるであろう電流を推定短絡電流といい、230V/1.10Ω=209Aとなります。)
TN系統の場合、接地抵抗が含まれないのでル ープインピーダンスは小さくなります1Ω前後。
IEC規格を適用している国ではTN系統の保護装置として過電流遮断器が設置されています。

12.TT系統における電源の自動遮断の保護

TT系統における電源の自動遮断の保護①

60364におけるTT系統の電源の自動遮断の条件は RA≦50V/Ia

  • RA:ループインピーダンス(接地極の接地抵抗とPEの抵抗の合計値)
  • 50V:安全な接触電圧の上限(交流実効値)
  • Ia:漏電遮断器の定格感度電流

安全な接触電圧とは人が触れても有害な危険を及ぼさない電圧のことで通常の状態で50V以下とされています。(人体が濡れている状態では25V以下)


TT系統における電源の自動遮断の保護②

例えばELCBによって保護されたTT系統では、最大のRA値は次のとおりです。
上図のようにELCの定格が30mAの場合、RAは1667Ωとなります。
(定格感度動作電流とは、その漏電遮断器が作動する漏れ電流のことです。)


TT系統における電源の自動遮断の保護③

このとき、ループ測定器の計測値は10Ω以下であり、60364に定める遮断条件(RA≦50V/30mA=1667Ω)を十分に満たしています。
TT系統の場合、ループインピーダンスはB種 +D種+配線抵抗の和となり、接地抵抗とほぼ等価であることとなります。(簡易接地抵抗の測定と同じ考え方)

13.故障ループインピーダンス測定が要求されているその他の規格

JIS 60364の試験以外では、JIS B 9960-1(IEC 60204-1)機械の安全性-機械の電気機器にも、保護ボンディング回路の導通性の検証のため、故障ループインピーダンスの測定が規定されています。 このJIS B 9960-1規格に適合していない場合は、 電気装置を持つ機械類は、2009年6月以降は欧州(EU)に出荷することができないため、国内でも故障ループインピーダンス測定が必須事項となっています。これらの試験もループ測定器によって、対応することが可能です。

14.ループ測定器セレクションガイド

モデル名 ループインピーダンス PSC PFC
KEW 4140
20/200/2000Ω
(100~280V)
2000A/20kA 
(100~500V)
2000A/20kA
(100~280V)

※KEW 4140は輸出モデルのため全て海外仕様となっております。
 日本国内でのご購入を検討される方は弊社営業までご相談ください。

15.参考文献

  • JIS C 60364-4-41:2010 低圧電気設備 4-41:安全保護感電保護
  • JIS C 60364-6:2010 低圧電気設備6:検証
  • 電気設備技術基準の解釈に導入されたIEC 60364(建築電気設備)説明会用テキスト
    日本電気協会/電気学会/電気設備学会 2000年
  • IEC 60204-1:2016 Safety of machinery - Electrical equipment of machines – Part1: General requirements
  • JIS B 9960-1:2019機械類の安全性機械の電気装置1:一般要求事項
  • A PRACTICAL GUIDE TO THE MEASUREMENTS ON ELECTRICAL INSTALLATIONS In accordance
    with IEC 60364-6 standard. 
    KYORITSU ELECTRICAL INSTRUMENTS WORKS, LTD